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私が選ぶ「後悔しない」道

斜陽産業といわれている万年筆業界ですが、その対策なのか、素材の高騰のせいのか定かなことはわかりませんが、各メーカーとも商品の値上がりが止まることを知らない感じで、万年筆好きとしてはかなり困っちゃう事態となっています。
だって、好きな万年筆が手軽に買えませんから。


以前にも書いた通り(こちらの記事です)、私はお気に入りじゃないと使い続けられない質だから何本も購入するというわけでもないのですが、それでも今欲しい万年筆はあるし、また突如として私の心を鷲掴みにする万年筆が出てきて購入したくなっても高価すぎてなかなか買えない、という状況というのは、やはり好ましいものではありません。

ここまで価格が高くなると、
「本当はこのモデルが欲しかったのに、こっちのモデルで我慢しようか」
という妥協も出てくるでしょう。

「あの時買っておけばよかった…」
という後悔も出てきます。

妥協はしたくはないけれど、現実的に考えると難しいですよね。
ただ私は、万年筆に限った話ではないのですが、
「お金がないからこれでいいかな〜」と、妥協して買える範囲の商品にしてしまうと、結局それはその時点でのお気に入りではないため、後に結局本命だった商品が欲しくなるという、後悔をこれまでに何度も味わってきました。

コレクターならアイテムが増えるので嬉しいけど、私はそうではないので、いつの頃からか嗜好性の高い商品については特に『妥協をしない』と、日頃から考えるようになりました。
これは一見素晴らしい考えなのですが、じつは資金がないと何も買えないという切実な問題も含んでいます。

欲しいのに買えないという状況は辛いですが、妥協すると後悔をしてしまうこともなんとなくわかっている…。これはどちらに転んでも辛い感じです。
でも、妥協はしないようにしています。

私が普段使用している万年筆はイタリアの『DELTA DV』という万年筆で、これはどうしても手に入れたくて、昼ごはんを節約しながら約1年弱続けた貯金などにより、やっと購入できた万年筆です。

当時、いくつか欲しい万年筆がありました。しかし、この機会を逃したら二度と手に入れられないかもしれないという思いもあったため、かなり高価なものでしたが、この一本を目指して貯金に励みました。

そして、目標の金額が貯まった頃、不思議なことに、すぐに購入できない自分がいました。

「本当に買ってしまっていいのか?」
「ほか万年筆の方がいいのではないか?」

と、訳のわからない葛藤に襲われていました。
いま思えば、それは「憧れている時間」があまりにも幸せすぎたのかもしれません。
約1年もの間、焦がれに焦がれ、頭の中で美化され続けたその万年筆は、私の中で現実を超えた「完璧な存在」になっていたのでしょう。
いざ手に入れられるとなった時、それは夢ではなく、現実という「物質」に変わってしまいます。
それは、

「手に入れてしまったら、この熱狂が終わってしまうのではないか」
「もし、想像していたものと違ったらどうしよう」

という夢から覚めることへの恐れであり、マリッジブルーに近い感覚だったのかもしれません。けれど、葛藤の末、私は購入ボタンを押したのです。

そして、約2ヶ月後、手元に届いた『DELTA DV』は、すべての不安を吹き飛ばす、圧倒的に美しく、書き心地もよく、大きさも申し分ない、理想的な万年筆でした。

妥協することなく、時間をかけて手に入れたこの一本は、本当に購入してよかったと心の底から思う一本でした。これはただの筆記具ではなく、私の人生の一時期を共にした相棒のような存在かもしれません。いまはその相棒と毎日、ジャーナリングや雑記などで手書きを楽しんでいます。

今回のこと絵を経て強く感じるようになったことがあります。それは、資金力があり、欲しいものがあればすぐ買える、という状況は悪くはないけれど、欲しいものがすぐに買えない状況も決して悪くはないのではないだろうかということです。

なぜか?

「待つ時間」と「葛藤する時間」が、そのモノへの愛着をより深く育ててくれると思うからです。

DELTA DV。最高の一本です。日々これしか使っていないなぁ…

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